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dear

現場監督が画家に転身。
“花の作品群”の原点。

「まさか君がそんな趣味を持っていたなんて知らなかったよ。」
「僕もこんな形で貢献できるなんて思ってもいませんでした。」
そう、本当に思ってもいませんでした。まさか自分が勤めている会社に自分が描いた絵画を飾ってもらえるとは。しかも多くの人目に触れる応接室と、社長も気に入ったようで社長室にも飾らせて頂けるなんて滅多にない事です。
19歳から絵を描き始めて約6年、こんなに長く続けている事は他にありません。忙しい仕事の傍らプライベートなんて時期によってはないようなものだけれど、どんなに忙しくても絵だけは続けていました。
…というより、唯一の趣味だったのでそれを辞めてしまうと仕事だけの日々に揉まれて自分が自分でなくなるのが怖くて辞めれなかった。と言った方が正しいかもしれません。
そして飾ってある花の絵画を眺めながら社長が続けました。
「それにしてもこの花の絵、なんで半分は色を塗ってて、もう半分は塗ってないんだ?」
「それは言い訳になるのですが、現場が忙しくて全て仕上げる事ができなかったんです。」
「確かに忙しいかもしれないけど、半分描けたなら勢いでもう半分も描けたんじゃないか?」
「そう思うかも知れませんが、これでも毎日描いてはいるんです。ただ時期によっては数分しか描けない日が続く事もあります。そうなると同じ色の作り方を忘れたりとかして、とにかくまとまった時間を確保できないと作品を作るのが難しいんです。この絵だけでなく、他にも半分未完成の作品がたくさんあるぐらいです。」
「そうか、なんだか会社が悪い事をしているみたいに聞こえるが建設業は今後も変わらないだろうからな。じゃあこの絵を完成させる事はできないのか…仮にも人目に触れるものだからな…」
「いえ、できます。」
「え、同じ色を作れないんじゃ?」
「前まではそうでしたが、この作品の制作中に色の作り方をメモしておきました。なのでもう半分を塗る事は可能です。これ以降の作品も調色のメモは残すようにしていますので他の作品も着色して仕上げれます。」
「そうか、じゃあ応接室と社長室にある絵を仕上げきる事はできるんだな。」
「ただ描く時間が取れればの話ですけどね。」
「君も代休やら有休が溜まっているんだろう?休みを取って一旦絵を持って帰れば…」

「…社長、

  お言葉ですが、、、」

「社長、お言葉ですが、それでは意味がないんです。」
「え?」
「だって、僕が休んでいても現場は動いているんですよ。そんな理由で休むだなんて、現場の人に説明できないですよ。ただでさえギリギリで回しているんですから。」
「それはそうかもしれないけど、社長の指示だと言えば、流石に通るだろう。」
「休む理由がたとえ社長命令だとしても、絵を描く為に休むと言う事に変わりはありません。結局は“私が趣味に勤しむ為に休む”と言う形で周りには捉えられます。それを現場の人がどう思うでしょうか?当然、みんなも同じ理由で休みたいと思うはずですよ。」
「ま、まあそうかもしれんが…仕事は仕事でやらないといけないからな…」
「社長の仰る通り、そうやって気軽に休めないのはウチの会社のせいじゃなくて、業種全体の問題だと思いますが、いずれにせよ私だけ休む訳にはいきません。」
「そこまで言われたら、八方塞がりだな…」
「あえて言いますが、作品を仕上げる事はできます。日中働いて、晩に描く。このルーティンを毎日続ければいつかは完成します。ですがそれは、日中の労働時間が“まとも”だった場合の話です。今後もこの労働環境が変わらないなら、この花も残念ながら枯れたままです。」

「もし、この花が色付く時が来るとしたら、それは私自身の労働環境が“まとも”になった時です。それと同時に業界全体、ひいては労働者全員の労働環境が“まとも”になった時です。その頃には、他の花たちも本来の色味を取り戻しているでしょうけどね。」



…私はこの最後に言い放った言葉が今でも忘れられません。

―――『本来の色味を取り戻す』... 。

その言葉は、私の作品たちに対してだけでなく、労働に悩むこの世の労働者全ての境遇を示唆しているような気がしてなりませんでした。

そう思って以来、私はこの子たちと共に戦うと心に決めたのです。
我々労働者たちの、本来の色味を、あるべき姿を取り戻す為に。

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