「…社長、
お言葉ですが、、、」
「社長、お言葉ですが、それでは意味がないんです。」
「え?」
「だって、僕が休んでいても現場は動いているんですよ。そんな理由で休むだなんて、現場の人に説明できないですよ。ただでさえギリギリで回しているんですから。」
「それはそうかもしれないけど、社長の指示だと言えば、流石に通るだろう。」
「休む理由がたとえ社長命令だとしても、絵を描く為に休むと言う事に変わりはありません。結局は“私が趣味に勤しむ為に休む”と言う形で周りには捉えられます。それを現場の人がどう思うでしょうか?当然、みんなも同じ理由で休みたいと思うはずですよ。」
「ま、まあそうかもしれんが…仕事は仕事でやらないといけないからな…」
「社長の仰る通り、そうやって気軽に休めないのはウチの会社のせいじゃなくて、業種全体の問題だと思いますが、いずれにせよ私だけ休む訳にはいきません。」
「そこまで言われたら、八方塞がりだな…」
「あえて言いますが、作品を仕上げる事はできます。日中働いて、晩に描く。このルーティンを毎日続ければいつかは完成します。ですがそれは、日中の労働時間が“まとも”だった場合の話です。今後もこの労働環境が変わらないなら、この花も残念ながら枯れたままです。」
「もし、この花が色付く時が来るとしたら、それは私自身の労働環境が“まとも”になった時です。それと同時に業界全体、ひいては労働者全員の労働環境が“まとも”になった時です。その頃には、他の花たちも本来の色味を取り戻しているでしょうけどね。」
…私はこの最後に言い放った言葉が今でも忘れられません。
―――『本来の色味を取り戻す』... 。
その言葉は、私の作品たちに対してだけでなく、労働に悩むこの世の労働者全ての境遇を示唆しているような気がしてなりませんでした。
そう思って以来、私はこの子たちと共に戦うと心に決めたのです。
我々労働者たちの、本来の色味を、あるべき姿を取り戻す為に。
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